塔とは、“名前”である。
その名に、どんな価値を込めるのか。
どんな声を集め、何を祈り、何を選ばなかったか——
世界はいま、塔に“名を与える”日を迎えていた。
◆ 第一節:命名の儀
《セレスティア・ハイロス》、
《ゼロ・オーダー本拠“静域”》、
そして、世界各地の記録者たち。
全ての拠点が、同時に起動を始めていた。
それは、かつてどの塔にもなかった儀式——
【世界記録構造・最終接続フェーズ:十三塔命名】
【各候補、名称の入力を開始してください】
塔は、名を持つことで「世界記録の中心」として認識される。
それが選ばれた瞬間、世界はその名の価値に従って再構成されていく。
「名を呼ぶことは、“未来を選ぶ”ってことなの」
リューカが、カイに言った。
「それぞれの陣営が、今この瞬間、“自分たちの信じる塔の名”を宣言する。
その“名前の共鳴度”が最も高かったものが、第十三塔になる」
◆ 第二節:各陣営の宣言
【セレスティア】
塔名:アルカ・ユニフィア(統一の律塔)
「すべての価値は調和する。
争いのない世界は、“一つの律”から生まれる」
【ゼロ・オーダー】
塔名:ノーマス(名無き塔)
「価値の源は“空白”にこそある。
名が与えられぬ世界こそ、真に自由である」
【世界記録構造:名称共鳴率を測定中……】
共鳴率は、まるで鼓動のように変動していた。
「カイ……あなたは、“どんな名”を呼ぶつもりなの?」
リューカが静かに問う。
◆ 第三節:カイの塔に宿る名
カイは、目を閉じた。
思い浮かべたのは、今までに出会った声たち。
——選ばれなかった声。
——名前のない願い。
——伝えられなかった後悔。
——価値にならなかった価値。
それらすべてを、彼は“ただの記録”としてではなく、“仲間”として抱えていた。
そして、口を開いた。
「俺の塔の名は——《エコー・ネームレス(残響の無名)》だ」
沈黙。
リューカが、目を見開く。
「無名……?」
「名を与えないことで、“すべての名前”を残す。
俺の塔は、“選ばれなかった名前”たちのための塔だ」
◆ 第四節:響く名、選ばれない声
【世界記録構造:反応あり】
【共鳴率——規格外値に達しました】
【記録塔構造:三重共鳴開始】
【第十三塔候補《エコー・ネームレス》、出現条件を満たしました】
空が割れた。
それは塔ではなかった。
無数の塔の“声”が折り重なる、ひとつの“響き”だった。
名を持たず、形も持たず。
だが、その中心には、確かに“残響”が生きていた。
「選ばれなかった俺たちの声も、
どこかに届いていたんだな……」
かつての亡霊たちが、光となって塔の周囲に舞う。
それは、ただの記録ではなく、“存在の肯定”だった。
◆ 終章:塔が選ばれる
世界が、塔を“選ぶ”。
いや、“カイの名を呼ぶ”。
誰もが口にできなかった名、
誰もが見落としていた価値、
そして——誰にも届かなかった声。
【最終決定】
【第十三塔:選定完了】
【名称:エコー・ネームレス】
【世界記録、再構成フェーズへ移行】
カイは、小さく呟いた。
「ありがとう。
——そしてこれからも、運ぶよ。まだ残ってる“声”がある限り」
◆ 次回予告:第26話「選ばれなかった世界」
第十三塔が選ばれたその裏で、
選ばれなかった“塔の世界”が、静かに崩れ始める。
だがそこにも、確かに“価値”があった。
カイは、その声に手を伸ばす。
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