選ばれるということは、
選ばれなかった誰かの上に立つことか。
それとも、誰かに“意味を与える”ことか。
世界は、いま、「どの価値を未来に残すか」を選ぼうとしている。
そしてその中で、“たったひとつの塔”が、確かに動き出した。
◆ 第一節:塔の収束
「動いてる……!」
リューカの声が、緊張に震えた。
カイの前に浮かぶ、第十三塔の座標群。
その中の一つが、わずかに大きく、明るくなっていた。
「……“収束”が始まったわ」
「収束?」
「ええ。今この瞬間、世界中の思想塔・記録・価値判断装置の全てが、
“どの第十三塔を中心に据えるか”を無意識に選び始めてるの」
「つまり……どれかひとつが、現実になるってことか」
「そして残りの“十三塔候補”は、“選ばれなかったまま”消えていく」
カイの胸で、フォノスフレイクが脈動する。
それはまるで、「本当にそれでいいのか」と問いかけてくるようだった。
◆ 第二節:セレスティアの決断
その頃、《セレスティア・ハイロス》では、
十二信徒たちが最終決議に入っていた。
「統一こそが、争いなき世界への唯一の道です」
「多様性は幻想です。“一つの価値”が必要です」
イグニスは黙って、それを聞いていた。
だが内心には、強く揺れる想いがあった。
(……ジン。君が守ろうとしたものは、
本当に“統一”だったのか?)
そのとき、議場に一本の“未認証通信”が届く。
【送信者:カイ・オルステッド】
【タイトル:俺の価値を、まだ聞く耳があるなら】
その内容は、カイ自身の声を記録したメッセージだった。
◆ 第三節:カイの声
「俺は、選べなかった。
兄貴の声も、仲間の声も、道端で拾った誰かの声も。
みんな“重かった”から、選びきれなかった」
「でも、それってそんなに悪いことか?」
「どれも捨てられなかったから、今の俺がいる」
「だったら——俺は、
“全部を抱えたまま進む”塔を、建ててみせるよ」
その声に、セレスティアの議場が静まり返る。
イグニスは静かに目を閉じて呟いた。
「……あの時、ジンが“何も言わなかった理由”が、ようやくわかった気がするよ」
◆ 第四節:共鳴の結晶
リューカが驚きの声を上げる。
「カイ……フォノスフレイクが……!」
手のひらに握られたレリックが、
まるで「塔そのもの」のような形状へと変化し始めていた。
形はまだ未完成。
だがそれは、「可能性の結晶体」としての進化だった。
フォノスフレイク・第十一形態発動
《塔の芽(スプロウト・アーク)》——価値を定義せずに受け止める、未確定の“塔の雛形”を形成する
「このままいけば……カイの塔が、“現実の塔”として出現する……!」
だが同時に、フォノスフレイクの周囲に黒い粒子が舞う。
「……誰かが、“他の塔の収束”を阻もうとしてる?」
◆ 終章:十三のうち、ひとつ
それは、《ゼロ・オーダー》の動きだった。
彼らは、すべての第十三塔候補を“未定義のまま”消し去る計画を進めていた。
「世界は“選べない”。だからこそ、ゼロに戻すべきなのよ」
そう語るのは、フィノ・エルネスティ。
かつてカイと接触し、“選び損ねた価値”に魅せられた少女。
「だけど、あなたの声が今でも響いてるの。
それは、ちょっとだけずるいのよ、カイ・オルステッド」
そして彼女は、新たなレリックを掲げた。
《ノンセレクター》——選択そのものを“凍結”し、あらゆる未来の確定を拒む力。
「これが、“選ばれない世界”への最後の手段。受けて立ってね」
◆ 次回予告:第23話「選ばれた塔、選ばれなかった者」
世界が“ひとつの塔”を選び始める。
だがその裏で、“選ばれなかった声”たちが、静かに崩れ始めていた——。
カイはその声を“運ぶ”ことができるのか。
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