レリックランナー第22話:十三のうち、ひとつ

選ばれるということは、
選ばれなかった誰かの上に立つことか。
それとも、誰かに“意味を与える”ことか。

世界は、いま、「どの価値を未来に残すか」を選ぼうとしている。
そしてその中で、“たったひとつの塔”が、確かに動き出した。


◆ 第一節:塔の収束

「動いてる……!」

リューカの声が、緊張に震えた。

カイの前に浮かぶ、第十三塔の座標群
その中の一つが、わずかに大きく、明るくなっていた。

「……“収束”が始まったわ」

「収束?」

「ええ。今この瞬間、世界中の思想塔・記録・価値判断装置の全てが、
 “どの第十三塔を中心に据えるか”を無意識に選び始めてるの」

「つまり……どれかひとつが、現実になるってことか」

「そして残りの“十三塔候補”は、“選ばれなかったまま”消えていく」

カイの胸で、フォノスフレイクが脈動する。
それはまるで、「本当にそれでいいのか」と問いかけてくるようだった。


◆ 第二節:セレスティアの決断

その頃、《セレスティア・ハイロス》では、
十二信徒たちが最終決議に入っていた。

「統一こそが、争いなき世界への唯一の道です」
「多様性は幻想です。“一つの価値”が必要です」

イグニスは黙って、それを聞いていた。
だが内心には、強く揺れる想いがあった。

(……ジン。君が守ろうとしたものは、
 本当に“統一”だったのか?)

そのとき、議場に一本の“未認証通信”が届く。

【送信者:カイ・オルステッド】
【タイトル:俺の価値を、まだ聞く耳があるなら】

その内容は、カイ自身の声を記録したメッセージだった。


◆ 第三節:カイの声

「俺は、選べなかった。
 兄貴の声も、仲間の声も、道端で拾った誰かの声も。
 みんな“重かった”から、選びきれなかった」

「でも、それってそんなに悪いことか?」
「どれも捨てられなかったから、今の俺がいる」

「だったら——俺は、
 “全部を抱えたまま進む”塔を、建ててみせるよ」

その声に、セレスティアの議場が静まり返る。

イグニスは静かに目を閉じて呟いた。

「……あの時、ジンが“何も言わなかった理由”が、ようやくわかった気がするよ」


◆ 第四節:共鳴の結晶

リューカが驚きの声を上げる。

「カイ……フォノスフレイクが……!」

手のひらに握られたレリックが、
まるで「塔そのもの」のような形状へと変化し始めていた。

形はまだ未完成。
だがそれは、「可能性の結晶体」としての進化だった。

フォノスフレイク・第十一形態発動
《塔の芽(スプロウト・アーク)》——価値を定義せずに受け止める、未確定の“塔の雛形”を形成する

「このままいけば……カイの塔が、“現実の塔”として出現する……!」

だが同時に、フォノスフレイクの周囲に黒い粒子が舞う。

「……誰かが、“他の塔の収束”を阻もうとしてる?」


◆ 終章:十三のうち、ひとつ

それは、《ゼロ・オーダー》の動きだった。

彼らは、すべての第十三塔候補を“未定義のまま”消し去る計画を進めていた。

「世界は“選べない”。だからこそ、ゼロに戻すべきなのよ」

そう語るのは、フィノ・エルネスティ。
かつてカイと接触し、“選び損ねた価値”に魅せられた少女。

「だけど、あなたの声が今でも響いてるの。
 それは、ちょっとだけずるいのよ、カイ・オルステッド」

そして彼女は、新たなレリックを掲げた。

《ノンセレクター》——選択そのものを“凍結”し、あらゆる未来の確定を拒む力。

「これが、“選ばれない世界”への最後の手段。受けて立ってね」


◆ 次回予告:第23話「選ばれた塔、選ばれなかった者」

世界が“ひとつの塔”を選び始める。
だがその裏で、“選ばれなかった声”たちが、静かに崩れ始めていた——。
カイはその声を“運ぶ”ことができるのか。

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