レリックランナー第21話:最初の共鳴者

共鳴とは、価値の一致ではない。
それは、響き合い、混ざり合い、ぶつかり合った末に生まれる“ずれ”のようなものだ。
それを受け入れられるか——それが、“運ぶ者”に試される。


◆ 第一節:消息なき記録者

「この人の名は……カドム・リエン

リューカが、フォノスフレイクが示した座標を見ながら言った。

「彼はかつて、《第十三塔構想》の最初期に関わったレリック理論家。
 “共鳴による価値拡張”という新概念を提唱した人物だった」

「じゃあ、俺と同じようなことを考えてたってことか……?」

「……ええ、でも」

リューカは顔を曇らせる。

「彼は、実験の結果——“世界に価値の崩壊を引き起こした”として、永久追放されたの」


◆ 第二節:幽閉地《ロスリッドの谷》

フォノスフレイクの導きに従い、カイとリューカは北方の雪原地帯《ロスリッドの谷》へ向かう。

そこにあったのは、雪に埋もれた廃墟。
古い記録塔の残骸を流用した、非公認の監視施設。

「ここに……“最初の共鳴者”が?」

カイが踏み入ると、廃墟の奥に、ローブ姿の老人がひとり、静かに腰を下ろしていた。

目を閉じ、息をするように、何かを“聞いて”いる。

「……お前が、フォノスフレイクの持ち主か」

その声は、まるで風そのもののようにかすかで、そして澄んでいた。


◆ 第三節:カドムの記憶

「私は、世界に“調和”をもたらそうとしたのではない。
 “違う価値を響かせるための場所”を作ろうとしただけだ」

「第十三塔の構想は、価値観を“まとめる”ための計画ではなかった。
 “重ねる”ための装置だったんだよ」

かつて、カドムは複数の思想塔の記録を意図的に交差させ、
「全く異なる価値同士が、響き合う瞬間」を観測しようとした。

結果——“意味の氾濫”が起き、複数の塔が混線状態に陥る。
社会の価値基準が一時的に崩壊し、“価値を語ること自体”が不可能になった。

「私は、罪を犯した。
 “どの声にも意味がある”と信じすぎた結果、誰の声も届かなくなった」

「……」

「それでもお前は、“すべての声を運ぶ”と言うか?」


◆ 第四節:カイの答え

カイは静かに頷いた。

「“全部をひとつにまとめる”つもりはない。
 でも、“全部に意味があっていい”ってことは——
 俺はまだ、信じてる」

「その結果、また価値が壊れるかもしれない」

「なら、それも“誰かの声”として、残せばいい」

カイはフォノスフレイクをかざす。

共鳴発動:フォノスフレイク 第十形態
《価値の調律域(トナリティ・アーカイブ)》——価値と価値の“ずれ”を認識し、記録の隙間に“余白”を生む

空間が震え、廃墟の天井に刻まれた古代記録が再構成される。
そこには、カドムが最後に書いた“声”があった。

「すべてを理解する必要はない」
「すべてを許す必要もない」
「だが、“否定しない”という価値だけは、誰かが残さなければならない」

カドムは、目を閉じたまま、微笑んだ。

「ようやく……この価値を“誰かに託せる”と思えたよ」


◆ 終章:選ぶ資格

「第十三塔を選ぶってことは、
 “他の塔を選ばなかったこと”と向き合うってことでもあるわ」

リューカが呟いた。

「うん。けどそれでも、俺は“選ばれなかった価値”を運び続ける」

フォノスフレイクの輝きは、今やカイ自身の“選択の記録”そのものとなっていた。

その光に、世界がわずかに反応する。

十三塔座標のうち——ひとつが、わずかに強まった。


◆ 次回予告:第22話「十三のうち、ひとつ」

ついに始まる、「第十三塔の収束」。
世界が“最も多くの共鳴を集めた価値”を選び始めるなか、
カイの選んだ道が、いかに孤独で、そして可能性に満ちているかが試される。

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