塔は、記録の器ではない。
記録される“世界の形”そのものだ。
だからこそ、十三番目の塔は、ひとつではありえなかった。
それは、無数の可能性のうち、どれを世界が選ぶか——
その“最後の選択”だった。
◆ 第一節:座標の揺らぎ
「リューカ、座標が……増えてる?」
カイが不思議そうに問う。
《フォノスフレイク》に刻まれた「第十三塔の座標」が、複数存在していることに気づいたのだ。
「おかしい……以前はひとつだけだった。
それが今は、三つ……いや、四つ?」
リューカの顔が険しくなる。
「これは、“塔そのものが確定していない”状態よ。
世界がまだ、“どの十三塔を選ぶか”を決めていないの」
「じゃあ、誰がその“本物”を決めるんだ?」
「それが、私たち。
セレスティア、ゼロ・オーダー、そしてカイ。
それぞれの“選んだ価値”が、塔の形を決めるのよ」
◆ 第二節:三者三様の「塔」
《セレスティア》の目指す第十三塔:
- 「統一の塔(アーク・ハーモナイズ)」
- すべての価値を調律し、争いのない単一思想に世界を揃える塔
- 完成すれば、全人類の“矛盾”が消える
- だが、自由な価値の選択は失われる
《ゼロ・オーダー》の目指す第十三塔:
- 「空白の塔(ノーエンド・コード)」
- 価値そのものを否定し、最初から記録を持たない世界へ
- “価値による苦しみ”を完全消去
- だが、人の歴史と意味も消える
カイの目指す塔(フォノスフレイクに共鳴する座標):
- 「残響の塔(エコー・オルビス)」
- 語られなかった価値、忘れられた声、間違いすら記録し、共存させる塔
- 未定義な価値を“そのまま残す”世界
- だが、“矛盾”や“痛み”も抱えたまま進むことになる
◆ 第三節:選択の揺らぎ
「じゃあ……このまま放っておいたら、どれかが“確定”して世界が書き換えられる?」
「ええ。どれかひとつが、“価値の中心塔”として他の塔を飲み込む。
そして、その価値観に沿って、世界そのものが“上書き”される」
「そんなのって……!」
カイは歯を食いしばる。
「人が一生懸命選んできた価値が、ひとつに決められるなんて……違うだろ」
そのとき——
フォノスフレイクが共鳴する。
カイの中に、兄ジンの声が響く。
「お前がどんな塔を選ぶか、それは俺には分からない。
でも、忘れるな。
選ばなかった“声”も、選べなかった“声”も、
本当は、全部“残っている”ってことを」
◆ 終章:それでも選ぶ
風が吹く。
四つの座標が、それぞれの“道”として空中に浮かび上がる。
それぞれが、塔の幻像を映している。
・完全に整った、静かな白金の塔(セレスティア)
・何も描かれていない、灰色の塔(ゼロ・オーダー)
・割れた鏡のように多彩な“断片”が混ざった塔(カイ)
リューカが問う。
「カイ。あなたはどの塔を選ぶ?」
カイは迷わず、フォノスフレイクを掲げた。
「選ばない。
——全部“運ぶ”って決めたんだ。
選べなかった声も、忘れられた声も、
間違ったって後悔した声も——全部、残したまま進む!!」
《フォノスフレイク》が激しく共鳴し、
幻像の塔の中で、カイの選んだ“第四の可能性”が揺れ始めた。
◆ 次回予告:第21話「最初の共鳴者」
カイの前に現れる、かつて“第十三塔の試作実験”に関わった者。
彼はかつて世界に“混乱”を招いた罪人か、それとも——
“共鳴”という概念を初めて理解した者だったのか。
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