レリックランナー第14話:破られた封印

レリックランナー

価値とは、希望だけではない。
誰かを救う価値は、誰かを裁く。
優しさの裏に、排除があり。
正義の影に、暴力がある。

それでも、人は価値を捨てられない。


◆ 第一節:塔の警報

《イーリム支部》に非常警報が鳴り響いたのは、深夜だった。

「カイ! リューカ! すぐにこれを見ろ!」

ヴァルド支部長が、映像装置を叩きながら言った。

空中投影に映されたのは、北東大陸の山岳地帯。
赤く点滅する標識の中央に、こう表示されていた。

【第3思想塔《ヴァリアンス・クレスト》:封印解除】
【侵蝕反応:塔喰らいの反応あり】
【危険:封印レリック《ドグマ・コード》開放状態】

「第3塔……!」

リューカが低く呟く。

「ここは、かつて“価値の優劣”を記録した塔。
 最も危険な“選別思想”を保管していた……」

カイが問う。

「選別思想……?」

「“優れた価値こそが正義”という概念よ。
 塔が暴走すれば、“違い”のすべてが排除対象になる」

「それじゃ……“多様性”が、否定される……」

カイは拳を握った。

「俺たちが行く。塔を……守る!」


◆ 第二節:暴走する価値観

山岳地帯にたどり着いたカイたちが見たものは、空を走る裁断の光だった。

《ヴァリアンス・クレスト》の上空に浮かぶのは、断層のような光帯。
その周囲で、空間そのものが裁かれていた。

「これは……“価値を測る力”か」

地表に落ちた光の先で、獣のように喰らいつくうねりが見える。

——塔喰らい《ヴォイドビースト》が、再び現れた。

だが今回は、前回とは違う。

塔のレリックが、異常に反応していた。

《ドグマ・コード》
かつて塔に封じられた、“価値優劣を自動判定する装置”。
使用者の意思を超えて、“最も価値のある者”だけを残し、他を排除する。

「“選ぶ”ってのは……! 誰かを見捨てることじゃないだろ!!」

カイが叫ぶ。

だが霧のような波動が走り、山肌に立っていた人々が消えていく。

「うわ……あれ……人間の“存在そのもの”を選別してるのか!?」

「塔が、“かつて最も優れたとされた価値”に基づいて、世界を分類しているのよ。
 しかもそれは、“過去の記録”の価値。今の人間には通用しないわ!」


◆ 第三節:裁きへの反抗

《フォノスフレイク》が共鳴しはじめる。

塔から放たれる「選別の光」が、カイの心に干渉してくる。

「選べ」
「お前の中の最も高潔な価値を選べ」
「そうでなければ——お前は“劣る側”として排除される」

その声に、カイの呼吸が乱れる。

「俺は……そんなの、選べない……!
 だって、どれも……俺の“本当の価値”だから!!」

リューカが叫ぶ。

「カイ! “声を集めて”! この塔に、今の価値を見せて!!」

カイは《声の欠片》をかざし、叫ぶ。

「兄貴の声——
 リューカの声——
 この世界で、迷いながら生きてる全員の声——!」


◆ 第四節:上書きされる価値

共鳴発動:フォノスフレイク 第六形態
《響界(きょうかい)の秤》——異なる価値観を一時的に同等化し、共存させる

《声の欠片》が光を放ち、塔に差し込む。
その光は、“選別”というシステムの中に“迷い”を与える。

「価値は、上下じゃねぇ。
 違って、揺れて、それでも一緒にいたいって思える“重なり”なんだ!!」

塔の光が砕ける。

《ドグマ・コード》が崩壊し、塔の最深部に眠っていた“記録の芯”が露わになる。

そこには、ひとつの古い手書きの記録があった。

【この思想は封印せよ】
【人を測る秤は、いずれ誰かを切り捨てる】
【正しさの名を借りた“支配”が生まれる前に】

「……塔自身が、“この価値観は危険だ”って分かってたんだ」

リューカが言った。

「けれどそれでも、残されていた。
 “正義の美しさ”に、人が惹かれる限り、忘れ去ることはできないから」


◆ 終章:塔の静寂、獣の気配

塔の崩壊は止まり、霧が晴れていく。
だがその奥で、カイは気づいた。

《ヴォイドビースト》の気配が、完全には消えていない。

それどころか、今まで以上に“方向性”を持ちはじめている。

「……まさか、誰かが“導いてる”のか?」

「そう。塔喰らいは自然現象じゃない。
 “ある意思”がそれを操っている」

リューカが呟く。

「おそらく……“セレスティアですらない何者か”が」

空には、塔喰らいの影を背に、白衣を翻す影が一瞬だけ浮かんだ。


◆ 次回予告:第15話「価値なき神」

謎の影が操る“塔喰らい”の真実。
その背後に存在する、“価値を超越した存在”——
すべての価値を否定し、統一すら意味を持たない“神なき正義”が現れる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました