正しさとは、数で決まるのか。
正しさとは、声の大きさで決まるのか。
それとも、誰かが泣いた数で決まるのか。
セレスティアが下した“決議”は、
そのすべてを踏みにじるほどに、“整っていた”。
◆ 第一節:会議の招集
白金の階段を、黒衣の者たちが昇っていく。
雲上に浮かぶ本部塔《セレスティア・ハイロス》。
そこで行われるのは、年に一度あるかないかの最高会議《統一決議(コード・ハーモナイズ)》。
椅子に並ぶのは12人。
《十二信徒(トゥエルブ・フェイス)》
セレスティアの中枢にして、思想塔それぞれの“価値”を継ぐ者たち。
その中に、イグニス・フェイルの姿もあった。
「本日、議題は一点」
中央席の老女が口を開く。
「《塔喰らい》、ヴォイドビーストの出現と、思想塔第十一の消失。
そして、それに干渉した存在——《カイ・オルステッド》について」
重苦しい沈黙が落ちる。
「……価値観の空白は、世界秩序そのものを破壊する。
それに対抗できる者は、我らの思想か、彼か。
ならば、選ばねばならぬ」
「つまり、“カイを味方に引き入れる”か、あるいは——」
「——排除するか、だ」
◆ 第二節:招かれた者たち
それと同じ時刻。
カイとリューカは再び《シン・アーカイブ》へと招かれていた。
「まさか、またここに来ることになるなんてな……」
「今度は“対話”じゃない。“審判”よ」
白い廊下を抜け、巨大な円形会議室へと案内される。
その中心には、カイのために用意された、たった一つの椅子。
そこに腰を下ろした彼に、全方向から視線が注がれる。
「カイ・オルステッド」
「君の行動は、明らかに我々の方針と衝突している」
「だが君のレリック、《フォノスフレイク》は、我々の計画にとっても重要な鍵だ」
「そこで問う。我らと歩む意思はあるか?」
カイは、真正面の席に座るイグニスを見つめた。
「イグニス……お前も、“それ”に賛成してるのか?」
「僕は、ジンの“選ばなかった道”を継いだつもりだ。
彼は正しさを求め、そして挫折した。
なら、僕が“間違わない正義”を作る。それだけさ」
「そんなもん……!」
カイは立ち上がる。
「間違ってもいいだろ!
誰かを傷つけても、間違いを“なかったこと”にしようとするなよ!!」
「では、選ばせよう」
中央席の老女が告げる。
「最終決議:価値の統一に協力する意思を示すなら、“塔の継承者”として迎え入れる」
「拒絶するならば、セレスティアは君を“価値の阻害者”と見なし、排除対象とする」
静寂。
誰も息を飲まない。
それすら、“整えられた空気”の中に溶けている。
◆ 第三節:揺らがぬ声
「それが……お前たちのやり方か」
カイは拳を握り、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「兄貴は……最後まで、運んでたんだ。
“誰にも聞かれなかった声”を、“価値を持たないまま消えた想い”を。
全部、自分で背負って」
「その背中を、俺は——間違いだなんて、思いたくない」
彼の胸で、《フォノスフレイク》が淡く光る。
「価値は揃えるもんじゃねえ。
ぶつかって、揺れて、折り合いつけて、それでも“残ったもの”が、本当の価値なんだよ!」
その瞬間——会議室が揺れた。
《フォノスフレイク》から放たれた共鳴波が、空間に浮かぶ塔の幻像を揺らし、
一瞬だけ、《十三番目の塔》の影が現れた。
ザワッ——
信徒たちが一斉に立ち上がる。
「第十三塔……本当に存在を……!」
老女が震える声で言った。
「やはり、カイ・オルステッドは——“鍵”か……!」
◆ 終章:決裂と影
会議は、強制的に中断された。
「カイ、すまない。僕は……」
イグニスが言いかけた言葉を、カイは振り払った。
「もういい。俺は俺の道を行く。
お前の“正しさ”に、折れる気はない」
「……なら、次に会うときは“敵”だ」
会議室を去るカイとリューカの背に、冷たい視線が突き刺さる。
その夜、セレスティアは“カイ排除の特命部隊”の編成を決議する。
そして、同時に別の勢力が動き出していた。
霧の奥。
“塔喰らい”の牙が、次の標的に向けて開かれていた。
◆ 次回予告:第14話「破られた封印」
塔喰らいの次なる襲撃地は、第3思想塔。
封印されていた“ある価値”が暴走し、世界に再び“分断”の影が走る——。
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