レリックランナー第10話:声を奪う街

レリックランナー

人は、声を持って生まれる。
泣き、笑い、叫び、訴え——
けれどそれを奪われたとき、人は果たして人でいられるのか。

言葉を失った街で、カイは“声”の本当の意味に直面する。


◆ 第一節:リスフォニアの沈黙

「……なんだ、ここ……」

リスフォニアの街に足を踏み入れたカイは、思わず呟いた。
だが、それに応える声はなかった。

街は、静まり返っていた。
市場も、広場も、人影はあるのに誰一人として“声を出していない”。

話さず。笑わず。叫ばず。
まるで、全員が“無言”を強いられているかのように。

「ここでは、誰も喋らないの?」

リューカも戸惑いを隠せない。

「……いいえ、“喋れない”の。言葉を、“奪われている”のよ」


◆ 第二節:沈黙のレリック《サイレンテリア》

街の中央、時計塔跡に巨大な“スピーカー”のような装置が設置されていた。

それはセレスティアの派遣部隊によって設置されたレリック——
《サイレンテリア》
言葉・音・感情の「発声」を封じ、価値観の“発信”そのものを抑制する装置だ。

「セレスティアは“声”を危険視しているのよ」
リューカが言う。

「人の声には、思想が宿る。
 揺れや反論、拒絶、信念……そういった価値の“バラつき”を、彼らは恐れてるの」

「だからって、街ごと沈黙させるなんて……!」

怒りを募らせるカイの胸で、《声の欠片》が微かに反応する。
だが、そのとき——

ピィィィィィィン……

耳を劈くような高周波。

「うっ……! な、なんだこれ……!」

膝をついたカイの手から、《声の欠片》が滑り落ちる。
空中に漂う淡い音の粒子が、無理やり“沈黙”に引き込まれていく。

《サイレンテリア》が《声の欠片》に干渉している。

「このままじゃ、カイの声ごとレリックが“凍結”されるわ!」


◆ 第三節:無音の少女・レニア

そこに現れたのは、一人の少女だった。

白いケープ、細い体、だが瞳には強い意志が宿っていた。

彼女は口を開かず、代わりに懐から紙を出す。

【わたしは レニア】
【この街で ただ一人 声を持つ者】

【あなたの声を 助けたい】

カイは驚いた。

「声……使えるのか?」

レニアは小さく頷き、指で胸元のレリックを示す。

《ヴォイセル・リング》
声を“記録”し、“再生”することで沈黙空間に言葉を響かせるレリック。

【この街の人たちは 皆“言葉を諦めた”】
【でも私は それが怖い】
【言葉を奪われたら わたしは わたしじゃなくなる】

その手書きの言葉に、カイは拳を握る。

「大丈夫。俺が“声”を取り戻す。
 この街にも、俺自身にも!」


◆ 第四節:声の奪還

カイは、レリックの沈黙フィールドの中で《声の欠片》を取り戻すため、
自らの“記録された声”を心の中で繰り返した。

「誰かに伝えたいって気持ちは、消せねぇんだ!」
「声があるから、人は繋がれるんだ!」

その叫びが共鳴し、《フォノスフレイク》が震える。

共鳴発動:第三形態
《響紋(きょうもん)の反響》——“封じられた声”を再起動し、共振させる

サイレンテリアの装置が震え、街中の人々の喉に熱が戻っていく。

そして——

「あ……!」
「お母さん……!」
「俺、声出せる……!」

街に、音が戻った。

人々が涙を流し、誰かの名を呼び、沈黙が破られていく。


◆ 終章:言葉の意味

夕暮れの市場で、レニアが小さな声でカイに言った。

「ありがとう。……わたし、自分の“声”が好きだったんだって、思い出した」

「そっか。俺も、“声”ってただの音じゃないって、今日分かったよ。
 心が、動いたときにしか出ないんだな」

リューカが後ろで、ほんの少しだけ笑っていた。

カイの声が、この世界を“揺らしている”。

それを知っている人間が、また一人、増えた。


◆ 次回予告:第11話「帰らざるランナー」

かつて兄ジンが最後に接触したという、幻のランナーの記録が残る島へ。
だが、そこにあったのは、声を持たぬまま“消えた意思”だった。

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