世界が光に包まれる時、それは必ずしも希望を意味しない。
時にそれは、“影”を生む。
“統一された価値観”という名の光の裏には、
「価値を持てなかった者」たちがいた。
◆ 第一節:シン・アーカイブ
空に浮かぶ都市、《シン・アーカイブ》。
天空にそびえる白金の都市は、まるで神殿のように荘厳だった。
「すごい……本当に空に浮かんでるのか」
カイは雲の切れ間から広がる都市を見上げ、声を漏らす。
招待状の案内に従い、彼とリューカは気球型の小型飛行船に乗っていた。
リューカはいつもの冷静な声で答える。
「浮いているのではなく、“拒絶されている”のよ」
「……え?」
「この都市は、“不確定な思想”を排除するフィールドで包まれている。
矛盾した価値観、曖昧な意思、それらを持つ者は上陸できない」
「つまり、ここの住人は“迷いがない”ってことか」
「ええ。逆に言えば、ここに来られる時点で、あなたの中の価値は“強固”ということ」
カイは、自分の胸にある《声の欠片》をそっと握った。
◆ 第二節:ゼロ・ピープル
都市の内部は静かだった。
白い建造物。無音の風。整然と並ぶ人々。
だが、その静けさが、どこか異様だった。
案内役の若い女性が、通路を進みながら語る。
「ようこそ、シン・アーカイブへ。
ここは“価値の最適化”を目指す研究都市です。
我々は現在、遺されたレリックと思想塔の記録から、人類にとって最も安定した価値観を再構築しています」
「……それが“統一”ってやつか?」
「はい。そして、統一から外れた者たちは“保護”されます」
その言葉に、リューカの目が鋭くなる。
「まさか、“ゼロ・ピープル”……」
「ええ。かつて価値観を持たなかった人々、あるいは価値を持てなくなった人々です。
彼らは、私たちの未来のために、安定施設で静かに過ごしています」
そう言って案内された先。
ガラス張りの巨大なホールの中。
そこには、人影が列をなしていた。
表情がない。声もない。反応もない。
ただ、そこに“いる”だけの存在。
「彼らはかつて、争いや裏切り、喪失によって自我を崩壊させた。
そのため、レリックとも共鳴せず、思想も持てなくなった」
カイは声を失った。
「それでも、僕たちは彼らを排除しない。
ただ、“価値を授ける準備”をしているのです。
最も安全で、最も正しいひとつの価値観を——」
◆ 第三節:光の向こう側
カイは黙って部屋を出た。
無言でついてきたリューカが、ようやく口を開く。
「これがセレスティアの正義よ。
“価値があるかどうか”を定義し、
“あると判断された者”だけが、生きるに値するとされる」
「……それでも、あいつらは“救ってる”って思ってるんだな」
「ええ。だから、怖いのよ。あまりにも“正しすぎる”」
カイは《声の欠片》を見つめた。
その瞬間、欠片が淡く輝いた。
誰かの声が、確かに響いた。
「……俺は、“ゼロ”にされた人々を見た。
あれが“正義”だというなら、俺は——運ばない」
「兄貴……」
声はジンのものだった。
それは、セレスティアと訣別する直前の“記録”だったのかもしれない。
◆ 終章:イグニスとの再会
カイとリューカが都市の縁を歩いていると、ひとりの男が待っていた。
「ようこそ、《シン・アーカイブ》へ。見てくれたか、僕たちの“光”を」
イグニス・フェイルだった。
「光……あれがか?」
「そうだよ。誰も争わず、誰も迷わず、ただ静かに在ることができる世界。
君はどう思った?」
カイはしばらく黙ってから、はっきりと答えた。
「……あれは、光じゃない。ただの“白”だ。
人の感情も、悔しさも、喜びも、全部塗り潰されてる」
「……そうか。なら、君はやはり“敵”だな」
イグニスがレリック《ジャッジフレア》に手をかけた。
「君の価値が、本当に矛盾していないのか。確かめさせてもらうよ」
次回、ふたりの価値が本格的にぶつかる——!
◆ 次回予告:第6話「選ばれし炎」
カイとイグニスの再戦。
“信じる価値”がぶつかり合う中、封印されたレリックの真の姿が目を覚ます。
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