レリックランナー第4話:統一の光

レリックランナー

「人が争うのは、価値観が違うからだ。
 ならば、全ての価値観を統一すれば、世界から争いは消える」

それは、真昼のように明るい正義だった。
だが、その光はあまりにも“眩しすぎた”。


◆ 第一節:来訪者

イーリムの街に戻ったカイとリューカは、支部でヴァルドに報告を済ませた。

「ふむ、思想塔が開いたとな……それは面倒な話になってきたな」

ヴァルドは煙管をくゆらせながら、古びた地図を開く。

「ここ数ヶ月、世界各地で“塔の活性反応”が観測されてる。
 特に“セレスティア”が活発になってきてるのが気になる」

「セレスティア……?」

リューカが代わって答える。

「世界を“価値観の統一”によって平和に導こうとする組織よ。
 思想塔の記録を集め、レリックを解析し、“最も安定した価値”を再構築している」

「それって……危なくないか?」

「危険よ。でも正しいとも言える。“正しすぎる”の」

そのとき、扉が静かに開いた。

潮風とともに現れたのは、一人の青年。

漆黒のコートに、銀の留め具。背筋を伸ばした立ち姿は、軍人のようでもあり、修道者のようでもある。

「……やあ、カイ」

彼は微笑みながら言った。

「久しぶりだな」


◆ 第二節:再会と剣

「……お前、イグニス!?」

カイが一歩踏み出す。

イグニス・フェイル。
兄ジンの親友にして、かつてカイに剣を教えてくれた青年。

彼は微笑を崩さず、静かに言った。

「僕は今、セレスティア《十二信徒》の一人。
 “正義の継承者”として、君に会いに来た」

空気が凍りつく。

リューカがすかさず前に出た。

「何の用? まさか、“連れ戻し”に来たわけじゃないでしょうね」

「違うよ。今日は“招待”に来ただけだ」

イグニスはポケットから一枚の銀製のカードを差し出した。

「我々セレスティアは、君たちを“記録解析会議”に招く。
 塔が開いた今、君たちがどんな“価値”を運ぼうとしているのか——確かめたい」

「俺たちの価値を?」

カイはカードを受け取りながら、目を細めた。

「お前が俺たちを試すってことか?」

「違う。君が“何を信じているのか”を、僕は知りたいんだ」

その言葉には、嘘がなかった。
けれど、それが余計に恐ろしかった。


◆ 第三節:正義の炎

街の外れ。
誰もいない石畳の広場で、カイはイグニスに呼び出された。

「……本当に、兄貴のこと知ってるのか?」

「もちろん。ジンは僕の“光”だった。
 でも彼は、世界の現実を見てしまった。
 だから僕は、彼の遺志を継ぐ形でセレスティアに入ったんだ」

「遺志……?」

イグニスの眼が一瞬だけ鋭くなる。

「彼は、“人間には自由すぎる”と言っていた。
 価値観が散らばりすぎた世界では、誰も正しさを保てないと——」

次の瞬間。
イグニスの背後に、青白い炎が燃え上がった。

それは、彼のレリック——

《審断の焔(ジャッジフレア)》

「この炎は、“矛盾”を裁く。
 君が信じる価値観に“迷い”があれば、燃やし尽くす」

カイは即座に《声の欠片》を取り出した。

兄の声が、微かに響く。

「カイ……人の価値観は、交わるためにある。
 交わらないまま消すんじゃない……!」

「なら……俺は、選ぶよ!」

炎が迸る。

だが、カイの中の“声”は消えなかった。

イグニスの目が驚きに見開かれる。

「君の中には……矛盾がない……?」

「俺はまだ何も分かっちゃいない。けど、迷うことを恐れてはいない!
 それが、俺の価値だ!」

青い炎はふっと消えた。

イグニスは、微笑を浮かべたまま、後ろを向いた。

「面白いな、カイ。
 やはり君は、“器”だ。——13番目の塔が、君を選んだ理由が分かる気がする」


◆ 終章:統一の光

その夜。
カイはリューカに“招待状”を見せた。

「行くの? 本当に?」

「行くさ。兄貴の“本当の気持ち”を知るためにも。
 それに……セレスティアの正義が、どれだけ“まっすぐ”なのか、確かめてみたい」

リューカは少しだけ口元を緩めた。

「なら、私も同行するわ。
 あなたが燃やされても困るから」

夜空には、十三番目の星がゆっくりと瞬いていた。


◆ 次回予告:第5話「価値なき者」

セレスティアの本拠地《シン・アーカイブ》に潜入したカイたちは、
“価値を持たない者たち”の存在と、統一計画の暗部を目の当たりにする。

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