選ばれたということは、
同時に——誰かが選ばれなかったということだ。
世界は今、“確定”という名の再構築を進めている。
だが、その裏側で、崩れていく“もうひとつの世界”にも、
確かに、誰かの祈りがあった。
◆ 第一節:収束の果て
《第十三塔:エコー・ネームレス》が確定したその瞬間、
世界全体に広がるようにして“消失”が始まった。
まず最初に崩れたのは、
ゼロ・オーダーが築こうとしていた「空白の塔」。
その座標から始まり、記録に干渉していた“無記名領域”が、
まるで霧が晴れるように消えていく。
【データ消去進行中:名称不明領域の情報ブロック】
【ノーマス構想、世界記録より除外】
リューカが呟く。
「“記録されなかった未来”が、消えていってる……」
◆ 第二節:崩壊する想い
その崩壊の中心地にいたのは、ひとりの少女。
フィノ・エルネスティ——
“空白の世界”を信じて戦ったゼロ・オーダーの記録者。
今、彼女の足元で、自らの記録が消えかけていた。
「……ああ、そうか。
私たちは、ただ“選ばれたくなかっただけ”なんだよね」
彼女は静かに笑う。
「自分で選べるようになったとき、
一番怖かったのは、“誰にも選ばれないこと”だった」
記録の外側で崩れゆく空間。
その片隅で、フィノは小さくつぶやいた。
「カイ。お願い。
“選ばれなかったこの世界”のことも、
ほんの少しでいいから、忘れないで——」
◆ 第三節:レリックの共鳴
その瞬間、カイのフォノスフレイクが震えた。
かすかな波動。
微弱だが、確かに“消えかけた価値”に反応していた。
《残響共鳴・外域接続》
未選定世界からの“記録断片”を回収しますか?
「……もちろんだ」
カイはそう言って、レリックを掲げた。
共鳴発動:フォノスフレイク 第十三形態
《失格の記録域(エグザイル・メモリア)》——選ばれなかった世界の記録を“断片”として保存し、塔の影に刻む
リューカが息を呑む。
「それって……世界から“削除される”はずだった価値を……!」
「運ぶよ。
だって、たとえ世界が選ばなかったとしても——
その価値は、確かに“誰かが選びかけた”ものだったんだから」
◆ 第四節:影の中の希望
崩れゆくノーマスの記録構造から、光が浮かぶ。
その中にあったのは、ひとつの手紙の断片だった。
【ごめんね】
【わたしは何も選べなかった】
【でも、あなたの声を聞けて、本当によかった】
その手紙は、もう存在しない“誰かの言葉”だった。
だが、カイの中でそれは、確かに生き続けていた。
「運ぶってのは、選ばれた価値を背負うことじゃない。
“選ばれなかった価値”に、居場所を作ることなんだよ」
そしてその記録は、フォノスフレイクの“影”の中へと吸い込まれていった。
塔の裏側、正式には記録されない“余白”として——
だがそこは、きっといつか誰かが立ち止まる場所になるだろう。
◆ 終章:そしてまだ塔は続く
第十三塔《エコー・ネームレス》は、世界に根を下ろしはじめていた。
だがそれは、完成された記録ではなく、
今なお“記録され続ける塔”として——
「名前がないということは、
“これからいくらでも名前を受け取れる”ってことなんだな」
カイは小さく微笑んだ。
リューカが頷く。
「そうよ。だからこそ、あなたの塔は終わらない。
まだ、“運ばれるべき声”がある限り——」
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