レリックランナー第25話:塔の名を呼ぶ日

塔とは、“名前”である。
その名に、どんな価値を込めるのか。
どんな声を集め、何を祈り、何を選ばなかったか——
世界はいま、塔に“名を与える”日を迎えていた。


◆ 第一節:命名の儀

《セレスティア・ハイロス》、
《ゼロ・オーダー本拠“静域”》、
そして、世界各地の記録者たち。

全ての拠点が、同時に起動を始めていた。

それは、かつてどの塔にもなかった儀式——

【世界記録構造・最終接続フェーズ:十三塔命名】
【各候補、名称の入力を開始してください】

塔は、名を持つことで「世界記録の中心」として認識される。
それが選ばれた瞬間、世界はその名の価値に従って再構成されていく。

「名を呼ぶことは、“未来を選ぶ”ってことなの」

リューカが、カイに言った。

「それぞれの陣営が、今この瞬間、“自分たちの信じる塔の名”を宣言する。
 その“名前の共鳴度”が最も高かったものが、第十三塔になる」


◆ 第二節:各陣営の宣言

【セレスティア】

塔名:アルカ・ユニフィア(統一の律塔)
「すべての価値は調和する。
 争いのない世界は、“一つの律”から生まれる」

【ゼロ・オーダー】

塔名:ノーマス(名無き塔)
「価値の源は“空白”にこそある。
 名が与えられぬ世界こそ、真に自由である」

【世界記録構造:名称共鳴率を測定中……】
共鳴率は、まるで鼓動のように変動していた。

「カイ……あなたは、“どんな名”を呼ぶつもりなの?」

リューカが静かに問う。


◆ 第三節:カイの塔に宿る名

カイは、目を閉じた。

思い浮かべたのは、今までに出会った声たち。

——選ばれなかった声。
——名前のない願い。
——伝えられなかった後悔。
——価値にならなかった価値。

それらすべてを、彼は“ただの記録”としてではなく、“仲間”として抱えていた。

そして、口を開いた。

「俺の塔の名は——《エコー・ネームレス(残響の無名)》だ」

沈黙。

リューカが、目を見開く。

「無名……?」

「名を与えないことで、“すべての名前”を残す。
 俺の塔は、“選ばれなかった名前”たちのための塔だ」


◆ 第四節:響く名、選ばれない声

【世界記録構造:反応あり】
【共鳴率——規格外値に達しました】
【記録塔構造:三重共鳴開始】
【第十三塔候補《エコー・ネームレス》、出現条件を満たしました】

空が割れた。

それは塔ではなかった。
無数の塔の“声”が折り重なる、ひとつの“響き”だった。

名を持たず、形も持たず。
だが、その中心には、確かに“残響”が生きていた。

「選ばれなかった俺たちの声も、
 どこかに届いていたんだな……」

かつての亡霊たちが、光となって塔の周囲に舞う。
それは、ただの記録ではなく、“存在の肯定”だった。


◆ 終章:塔が選ばれる

世界が、塔を“選ぶ”。
いや、“カイの名を呼ぶ”。

誰もが口にできなかった名、
誰もが見落としていた価値、
そして——誰にも届かなかった声。

【最終決定】
【第十三塔:選定完了】
【名称:エコー・ネームレス】
【世界記録、再構成フェーズへ移行】

カイは、小さく呟いた。

「ありがとう。
 ——そしてこれからも、運ぶよ。まだ残ってる“声”がある限り」


◆ 次回予告:第26話「選ばれなかった世界」

第十三塔が選ばれたその裏で、
選ばれなかった“塔の世界”が、静かに崩れ始める。
だがそこにも、確かに“価値”があった。
カイは、その声に手を伸ばす。

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