世界が何かを選ぶとき、
必ず何かが選ばれずに取り残される。
だが、その“取り残されたもの”が無意味だったかといえば、
誰にも、そんなことは言えないはずだ。
◆ 第一節:選定の兆し
空が揺れていた。
物理的な揺れではなく——“構造”そのものがきしむような音が、世界中で聞こえ始めていた。
「選定が始まってる……!」
リューカの声に、カイも空を見上げる。
雲の奥で、“塔”の幻影が浮かんでは消える。
それは、世界が無意識に「どの価値を未来に残すか」を決めようとしている証。
セレスティア、ゼロ・オーダー、そしてカイ。
それぞれの選んだ“第十三塔”が、世界の記録基盤を揺らし始めていた。
「でも……!」
リューカが息を呑む。
「“選ばれなかった塔”の周辺が、崩れ始めてる……!」
◆ 第二節:崩れゆく価値たち
各地の思想塔で、“記録の削除”が発生し始める。
【第5塔:補助価値記録の消去開始】
【第9塔:少数文化に関する価値基盤、共鳴消失】
【第1塔:分岐記録データ、消滅予定処理に入る】
「これは……“選ばれなかった側”の声が、“なかったこと”にされていく……!」
カイは歯を食いしばる。
「そんなの……そんなのってアリかよ!
どの価値にも、誰かが“必死で辿り着いた意味”があるのに……!」
《フォノスフレイク》共鳴開始:記録再構成モードへ移行
《記録漏洩域の補完》を試行しますか?
「もちろんだ!!」
◆ 第三節:選ばれなかった者の声
フォノスフレイクが放つ光の中から、無数の“断片的な声”があふれ出す。
「俺は、ただ、認められたかった」
「救いたかった。でも救えなかった」
「正しかったかどうかなんて、今でも分からない」
「でも、その瞬間、俺は本気で信じてた」
それらはすべて——「選ばれなかった塔」に集められ、今まさに“削除されかけていた”価値の記録だった。
共鳴発動:フォノスフレイク 第十二形態
《余剰価値の回廊(レムナント・オーバーパス)》——失われかけた価値記録を一時的に“道”として保存し、未来へ運ぶ
カイの足元から、光の小道が伸びる。
それは“価値の残響”を刻むための仮の回廊。
「消させねぇ……!
誰かが泣きながら生んだ価値を、そんな簡単に“なかったこと”にしてたまるかよ!!」
◆ 第四節:残すという選択
「……でもカイ」
リューカが、静かに言う。
「この塔の“選定”は、止められない。
世界が、どれか一つの“基準”を選ぶのは、避けられないのよ」
「それでも……!」
カイは振り返る。
「“残せる場所”を作ればいい。
例え“選ばれた塔”がどこだとしても——
それとは別の場所に、“運ばれた価値”が残っていれば……!」
「その価値は、きっと、誰かの“明日”に届くはずだから!」
◆ 終章:塔は、選ばれ始めた
空に浮かぶ四つの幻影のうち、ひとつが“確定”に近づいていた。
セレスティアの「統一の塔」か、
ゼロ・オーダーの「空白の塔」か、
それともカイの「残響の塔」か——
そのとき。
空に現れた塔の輪郭の一部に、カイが“救った断片的価値”の色が、確かに混ざっていた。
「カイ……あなたの塔が、今、“誰かの選択肢”になってる……!」
だがその光景を、フィノが遠くから見つめていた。
「ねぇ、カイ。もしあなたの塔が選ばれたら——
“選ばれなかった私”を、どうするつもりなの?」
その言葉は、空を切り裂くような鋭さを帯びていた。
◆ 次回予告:第24話「価値の亡霊」
選ばれなかった者たちの声が“亡霊”となって現れ始める。
それは、かつて誰にも届かなかった価値の最後の咆哮。
カイは“救えなかった声”と、ついに向き合う。
コメント