レリックランナー第16話:思想塔・崩壊連鎖

レリックランナー

崩れるのは、塔だけではなかった。
人々の信仰、記憶、信念。
この世界を形づくっていた“価値”の骨組みが、ひとつ、またひとつと、崩れはじめていた。


◆ 第一節:緊急報告

「カイ。リューカ……悪い知らせだ」

ヴァルド支部長の声は、いつになく深刻だった。

彼の前に投影された地図には、世界各地の思想塔が赤く点滅していた。

【速報】
【第2、第5、第9思想塔に“共鳴異常”】
【第4、第10塔に“沈黙状態”】
【第1塔に“構造崩壊の兆候”】

「どういうことだ……! まるで、塔が連鎖的に崩れていってる……!」

リューカは額に手を当てる。

「塔の記録構造は、思想の“対立”と“バランス”で成り立ってる。
 一つの塔が消されれば、その反対側にある価値も“支え”を失って崩れていく……」

「つまりこれは……“価値のドミノ倒し”だってことか」

カイの胸で、フォノスフレイクがわずかに軋む音を立てた。


◆ 第二節:守ることの限界

「……もう、間に合わないかもしれない」

リューカが呟いた。
珍しく、絶望に近い声音だった。

「いくら君が“声”を響かせても、今や塔の“記録”そのものが崩れてきてる。
 価値を届けるどころか、存在そのものが、消されていく……」

「でも……!」

カイは拳を握った。

「だからって、何もせず見てるわけにはいかねぇだろ!!」

「……っ!」

その叫びに、リューカは目を見開いた。

彼女の脳裏に、昔見捨ててしまった声がよみがえる。
かつて、自分が“正しさ”に迷ったせいで、ある街が言葉を失った——あの罪を。

(……今の私は、あのときの“観測者”と何が違う?)

「リューカ……?」

カイの手が、彼女の肩に触れる。

「俺たちは、“価値の保存者”じゃない。
 “価値を未来に渡す走者”なんだろ?」

その言葉に、リューカは静かに頷いた。

「……そうね。私たちは、まだ“運んでる”」


◆ 第三節:セレスティアの動揺

そのころ、《シン・アーカイブ》では十二信徒のうち3人が欠席していた。

「各地の塔が機能を喪失し始めています。統一計画は……継続困難です」

「カイ・オルステッドの存在を“特異点”として認定するべきだ」

「第十三塔の顕現が事実であれば、すでにこの世界の構造そのものが変質している」

もはやセレスティアは、「統一の正義」を保つだけの力を持たなくなっていた。
その崩壊は、イグニスの心にも陰を落としていた。

「ジン……君は、何を見て、何を“壊そう”としたんだ?」


◆ 第四節:動き出す第三勢力

その夜。
ある塔の地下にて、フードを被った謎の人物たちが集っていた。

「“記録の支配者”たちが崩れた今こそ、我らの時だ」

「塔の代わりに、“新しい価値の柱”を築く」

「セレスティアも、塔喰らいも、フォノスフレイクも——我らの“理想”には不要だ」

彼らの名は——《ゼロ・オーダー》
“記録される以前の価値”を、完全な形で人類に与えようとする極端な人工思想派である。

その中心に座るひとりの少女が、呟く。

「カイ・オルステッド……
 あなたの“声”がこの世界に鳴り響く前に、私たちが“静寂”を与えるわ」


◆ 終章:旅の再定義

「カイ。次に行くべき場所が分かった」

リューカが、破損した塔の座標を手に言った。

「思想塔を“守る”んじゃない。
 思想塔の中にある“最初の価値”——塔を建てる理由、それを掘り起こすの」

「それができたら……」

「世界は、塔の“崩壊”を超えて、新たな価値観を迎えられる」

「じゃあ行こう。まだ運んでない“声”が、そこにあるなら」

フォノスフレイクが、静かに輝いた。

その色は、かつてのような眩しさではなく、
深く、力強く——“道を照らす灯”のように。


◆ 次回予告:第17話「塔の建設者」

思想塔の原初に関わった“塔の建設者”たちの記録が眠る遺跡へ。
そこに残されていたのは、「人類が初めて築いた価値」の痕跡と、
ジン・オルステッドの“知られざる決断”だった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました